11月12日(金)西院・ウーララ

リストラーズ

陳五郎(g)、北原秀晃(g)、山中恭介(b)、かっち(d)のブルースバンド「リストラーズ」のデビューライブに行つた。リストラされたのではなく、俺たちが他のメンバーをリストラしたのさとうそぶく人が集まつたバンドだ。

リストラーズは一組目の出演。タイバンが二組(J-FUNK All StarsとRa'con。いづれもファンク)あつたが、その夜に出演する三バンドの中でリストラーズがダントツに上手く、普通にプロフェッショナルしてゐて、「上手過ぎて申し訳ないっす」といふ感じだつた。音を聴いたRa'conの akitowonderさんが関心することしきりで、「上手いなあ。特にリードギターは滅茶苦茶上手い」と言つてゐた。

リハの時に何かあつたらしく、陳五郎さんは少々ご機嫌斜め。そのためかギターソロは冴え渡つてゐるとは言へなかつたが、リストラーズそのものはハイレベルの演奏だつた。特に北原さんのギターが凄かつた。他のバンドを取材に来てゐた人がゐたやうだが、この若いギタリストは何者かと驚いたのではないか。欲を言へばブルースのど真ん中の曲を一曲聴きたかつたところだが、一夜限りの伝説になるかもしれないリストラーズライブを堪能できたのは最高だつた。

三組目のRa'conも良かつた。Ra'conは関西のクラブシーンではよく知られてゐるファンクバンドとのこと。キーボード&ボーカルの akitowonderさんがとにかく才能のある人で、音楽が好きで仕方がないといふ感じでグルーブ感を作り出し、比較的年齢層の高めの人も含めて客を乗せてゐた。

ファンキーなブルースロックのリストラーズとファンクバンド二組といふ、いつもの陳五郎系ライブとは違ふ雰囲気で、面白いライブだつた。

(11月13日記、高坂)


7月14日(水)北山・MOJO WEST

師匠からのマル秘情報を得て、バイト終わって必死で神戸から駆けつけました。着いたときにはなにやら若いお兄ちゃんの二人組みがアコースティックを演っている。
「だれやろう?始めてみる人やなぁ・・」
と、席についてからもしばらく気づかなかった私。
よーくみたら、
「あああああ!陳五郎さんやっつ!」
びっくりしましたがな。ジム仲間、嶋谷君とのデュオでした。歌もよかったです!!

次は、団君がブライアンセッツアーばりにロックンロールに決めてましたね。ベースの、京都ジム管理人谷口さんが歌いだしたときは、これまたびっくりでした。オリジナルも飛び出して楽しかった。
女性ファンや若者(生徒さんかな?)の熱い視線が印象的でした。

で、珍獣王国。いつもの、ノリノリのステージに加え、最後の2曲には師匠も参加されたので一気にボルテージがあがり、ものすごい厚みをかんじる音となって迫ってきました。
観客も師匠のギターを待っていた!って感じでした。アンコールが出たのも当然ですよね。

最後にとびっきりの目玉(???)、師匠、晴さんのギターに加えなんとボーカルは、あのアドちゃんでおなじみの水森亜土さん!!!!!
おもわぬゲストに、みな騒然。
もう、うれしかったぁ。握手してもらったもんねー。
亜土さんは、ブルース名曲をメドレーにして次々と披露。「秘密のアッコちゃん」もとびだして、ほんとに楽しいステージでした。
亜土さん、めっちゃかわいかったです。服装もアドチャンのイメージのまま。トレードマークの帽子もキラキラしてて、素敵でした。

師匠ありがとうございました! MOJO WEST 超満員で楽しかったです。

nakomi〜7月17日伸ちゃんの掲示板より〜)

《追記》

7月14日、MOJO WEST LIVE、何とか務め終えました。

兄弟子を従えてフロントに立ち、師匠や師範代たちの見守る中でのプレイは緊張しました。

といいますか、このライブに師匠から指名を受けて以来、プレッシャーにツブされそうな毎日でした。

また一皮剥かせていただきました。塩師匠、ありがとうございました。

それから、早い時間から応援に来てくだすったヒデちゃん(北原秀晃ではありません)。ありがとうございました。支えていただきました。

ようやく、落ち着いた日常をとりもどせそうです。怒涛の日々については、例によってマイペースでUPさせていただきます。

(陳五郎〜7月17日みゅーず掲示板より〜)

師匠の版を覗いてみると、師の私へのあたたかいレスのあとに、姉弟子のnakomiさんがライブの様子をあげておられました。拙サイトへの転載を申し出たところ、快諾してくださいました。ありがとうございます。

(陳五郎〜7月18日みゅーず掲示板より〜)


6月28日(月)西院・ウーララ

6月28日、私はまだ京都にいた。いつもなら、夕方には地元に帰る電車に乗っているのだが、今日は、私の友人と一緒に陳五郎さんライブに行く日だからである。1年程前、陳五郎さんのライブを見に行ったことがあるが、そのときは「みゅーず」というバンドのギター担当でボーカルではなかった。今回は、「ブルースマン」の陳五郎さんが見られるということで、楽しみにしていた。

阪急線の西院駅で友人と合流し、ライブ会場である「OOH−LA−LA(ウーララ)」に向かう。私は、実は、ライブハウスに行ったことがない。前回のライブはジーパン屋の2階で行われたため、ライブハウスというよりも屋根裏という感じだった。(それはそれで、趣があったのであるが)なので、今回はライブハウスの雰囲気を味わうという意味でも楽しみだった。

ウーララに着き、料金を払って中に入る。中は、奥にカウンターがあり、あとはテーブルが3〜4つある20〜30人位入れる広さだった。客は、学生らしき人、背広を着ている人、普段着の人などがそれぞれのグループに分かれて座っていた。私も適当なイスに座り、明太子やきそばを注文する。私はライブハウスでどのようにしていればいいのかわからず、なにか、自分が場違いな場所にいるのを感じた。結構、緊張しているのかもしれない。本当は家に帰っている時間なので、帰宅が遅れる言い訳を考えていた。

すると、1組目の演奏が始まった。性格上、観察することが好きなので、ギターの指さばきを見ながら「この人がこのレベルに達するのに、どのくらいの時間がかかったのか」とか「作詞、作曲は自分でやっているのか」とか「人前で演奏するのは、恥ずかしくないのか」などと考えていた。まだ緊張しているのかもしれない。概して、「生きるって素晴らしいね」といった内容のメッセージソングだったが、横に座っていた陳五郎さんが「俺にはこういうの(音楽)は分からん」と言っていた。彼は気持ちよく演奏しているようだったが、私も特に伝わってくるものは感じられなかった。どこかで聞いた歌詞やメロディーだったからかもしれない。人を感動させることは、とても難しいと思った。

2組目は「松田かずさ」という人だった。演奏の前に、「今日は雨の精を意識してきました」と言った。なるほど、洋服中に雨粒のようなもの付いている。正直、「何だこいつは?」と思ったが、演奏が始まって納得した。独特の歌詞に、独特のメロディー。それは、雨の精とは何の関係も無かったのだが、彼女の音楽の方向性はなんとなく感じられた。つまり、彼女は「不思議少女」なのだ。自分の感じた世界をそのまま音楽にしているのだ。演奏の技術うんぬんよりも「ああそうか、この人はこういう世界を持っているのか」ということが感じられた。私は自分の思っていることを人前で発表することが苦手なので、それができる彼女は私にとっては特異な存在であり、そういった意味で興味を持った。自主制作のCDをほしい人は配るということだったので、私は戴くことにした。(ライブから約1週間たつが、サビの部分がいまだ耳から離れない…)

2組の演奏が終わった頃、そろそろ帰る予定の時刻になったので、どうしようかと迷ったが、次が陳五郎さんの番らしいので、席につくことにした。陳五郎さんを見て驚いた。帽子にサングラスをかけただけなのだが、雰囲気がぜんぜん違うのである。さっきまで、横で酒を飲んでいた陳五郎さんととはまるで別人のようだった。なにか、とんでもないことが起こる予感がした。1曲目が始まった。圧倒された。失礼だが、最初の2組とぜんぜんレベルが違うのである。ボーカルも、演奏も、客の盛り上がりも、何もかもが。私はギターを弾けないので、演奏する人のレベルが分からない。せいぜい「この人よりもこの人のほうが上手いかなあ」という程度である。ところが、陳五郎さんのギターはそうではないのである。共演している北原秀晃さんもそうだが、なんというか、音に感情があるのを感じた。恐らく、いろいろなものを捨てないと、この音は出せないのだと思った。会場を見渡すと誰もが、両名の指さばきにみとれ、あるいは、曲に聞きほれていた。私も、そうしながら、自分に彼女がいたら、絶対ここには連れて来られないと思った。惚れてしまうからである。あっという間に時間が過ぎ、最後の曲になった。最後の曲は、2人がギター(の技術)で喧嘩しているように思えた。私からすれば、両名ともとんでもない技術の持ち主である。なので、お互いは共演相手のことをどう思っているのかが気になった。

ライブが終わって、陳五郎さんと握手をする機会があった。私は、ボールペンをよく使うので中指が少し変形しているが、結構この指を気に入っている。握手したついでに、指を見せてもらった。指先が、カチカチだった。当然のことだが、影で相当練習しているのだろう。私も自分の仕事を頑張ろう。帰りの電車にゆれながら、私は、そのことと今日の帰宅の言い訳とを考えていた。

(7月6日記、眠らない男)


4月21日(水)西院・ウーララ

俺が《うーらら》の前に辿り着いたのは午後8時頃であった。既に開演時間から1時間が経過している。大遅刻である。自業自得のトラブル。店の場所と最寄り駅を忘却するという致命的なミス。最前まで自分のバカさ加減を呪いながら夜の京都を彷徨っていた。もし、あの親切なオヤジが助けてくれなかったら、遅刻どころか、ライブ会場に入る事すら不可能だっただろう。汗だくの俺は肩で息をしながら店のドアを開けた。そこには例の愛想のない女が座っており、昆虫を思わせる対応で俺を歓迎してくれた。慌しく席料を支払うと、奥の扉を開けて、会場に忍び込む。

店内は音楽と観客で埋め尽くされていた。そこには、腕組みをした陳五郎さんが立っていた。まるで俺が現れるのを予測していたかのように。陳五郎さんは無言で俺の席を確保してくれた。ステージでは初めて見る女性ボーカルがトークと熱唱を繰り広げていた。どうやら、陳五郎さんの演奏はこの後らしい。最悪の事態は避けられたようだ。その安堵感のせいだろうか。喉の渇きと空腹感が蘇ってきた。立て続けに生ビールを2杯。酒肴として海老の唐揚げとチーズの盛り合わせ、枝豆等を頼む。旨い。こんなに美味しいビールを呑むのは久し振りだ。

実を言うと、俺は陳五郎さんの歌声を聴いた経験が少ない。ライブには何度もお邪魔しているが、主役と言うより脇役に徹している姿の印象が強いのである。だが、今夜は違った。今日の陳五郎さんは紛れもない主人公であった。ヒデさんという強力な助っ人を引き連れて、陳五郎節が炸裂する。音楽の事など何もわからない何も知らない俺だけど、陳五郎さんの勇姿には、毎回憧憬の念を覚える。今夜はその感情をより強く感じた。

曲間の2人のやり取りが面白い。まるで良質の漫才を見ているかのようである。歌の内容が落ち着いたものが多いので、その落差がかえって魅力的である。お客さんのウケも良い。この店には野暮な客はまず来ない。お客の反応が良ければ、演奏者のテンションも加速的に上昇する。演者とお客の理想的相互関係。密度の濃い時間が流れた。ラストには思わぬ飛び入りも登場して、場内騒然。ライブは盛況の内に幕を閉じた。熱い拍手が暫く鳴り止まなかった。

演奏終了後、陳五郎さんの計らいで、ファンの方々と歓談する機会があった。皆が、かの子連れブルースマンについての、思いや感想を熱心に語ってくれる。俺は最後のビールを楽しみながらその話に耳を傾けていた。陳五郎さんってえらい人気者やなあ。そんな陳五郎さんの友達(末席だけど)である自分も何やら誇らしかった。あの人には周囲の人間を元気にさせる不思議なエネルギーを有している。俺もまたその恩恵を授かっている一人である。いつまでもここに居座っていたかったが、そうも言っていられない時刻となった。明日からまた下らない仕事が俺を待っている。

うーららの外に出る。ライブの熱気にアテられて、頬が火照っているのが自分でもわかった。わざわざ陳五郎さんが見送りに出てきて下さる。勿体ない事だ。有り難い事だ。身に余る光栄でござんす。暫く談笑した後、俺は陳五郎さんと別れた。御大が俺の事を心配してくれているのが痛切に感じられた。その恩義に応えるにはどうすれば良いのか?俺に何か出来る事があるのか?そんな事を考えながら、夜の街を再び走った。人通りは流石に減っていたが、パチンコ屋や食べもの屋の照明が煌々と歩道を照らしている。古き都が眠りにつくには、まだ時がかかりそうだった。

人の情けが身に染みる。そんな夜であった。

(5月16日記、宮村直佳)


4月4日(土)亀岡・すみれや

外は雨模様であった。その日は雨女が主人公の映画を観ていた。実は俺も雨男の素質(?)があるので、そういう意味では共感の持てる作品であった。出掛けようと思った日に限って雨が降る。そしてその翌日が快晴である場合が多いのも雨男の特徴である。俺の人生もそんな風である。

午後3時頃、家を出た。今日は《珍獣王国》&《みゅーず》のライブがある日なのだ。俺は暇つぶし用の文庫本と傘を持って近所の駅へと向った。徒歩である。空を見上げると鉛色の雲がその全面を占拠していた。昼だと言うのに薄暗い。だが、雨粒の爆撃は中断されている。とりあえず傘の出番はなさそうであった。

在来線を利用する。まず米原に移動。それから快速電車に乗って京都まで。それから嵯峨野線に乗り換える。千代川駅下車。こじんまりとした可愛らしい駅である。この前、俺はかの森利行氏とここで再会した。あれから数ヶ月が経過している。歳を重ねる毎に時間の流れは加速するものらしい。本日のライブ会場である《スミレや》へと向う。季節は春の筈なのに妙に肌寒い。薄着で来た自分の軽率さを責める。雨が降っていないのがせめてもの救いであった。

スミレやに到着する。パン屋兼レストラン。酒はビールとワインぐらいしかないが、食べものの方は充実している。無闇に安いのも魅力的である。こういう店が俺のウチの近くに出来ないものか。店内は満席となっていた。昨日の内に予約を入れておいて良かった。指定された席に座る。その真ん前で陳五郎さんと大城さんが愛機の調整を行っておられた。その奥では珍獣王国のメンバーが悠然たる雰囲気で構えていた。リーダーたる山下さんの姿も見える。彼には独特の風格がある。才能のある人は余人とは異なる気配を備えているものである。かの音楽集団を率いるに相応しい貫禄だ。確か彼は俺より年下の筈。この差はなんなのか。まあ、比べる事自体間違いだが。

陳五郎さんが俺の顔を見て一言。「なんか元気がねえなあ」

今夜のライブは大成功と言って良い盛り上がりを見せていた。みゅーずが先陣を切り、珍獣王の歌声が冴え渡る。演奏の途中、珍獣王国のライブには必ず駆けつける熱心な女性ファンにメンバーから記念品が贈呈されるという一幕があった。思わぬ展開にかの女性も吃驚。驚きと嬉しさが混じった彼女の表情が印象的であった。同時にファンを大切にする珍獣王国の真摯な姿勢に感動した。その精神をいつまでも忘れずにいて欲しいものだ。この日はみゅーずの新戦力の登場もあり、ラストは両チームのセッションで〆るという豪華絢爛振りであった。今日来たお客さんは随分得したな。

ライブ終了後、トイレの鏡に映った自分の顔を眺める。確かに酷い面である。我ながらゾッとした。これが人間の顔と言えるだろうか。詐欺師の顔である。あらゆる責任から逃れ続けてきた顔である。これじゃあ、誰にも相手にされないのも無理はないな。30年間の時間がもたらしたもの。最近、俺の人生そのものが俺の顔に浮び始めたらしい。その辺りをグサリと指摘された陳五郎さんの眼力の凄さ。末席とは言え、かの人の友人である資格が俺などにあるのかどうか。瞬間、鏡面に拳を叩き込みたくなったが、サマにならないので中止した。

陳五郎さんと大城さんに軽く挨拶をすると、俺は逃げるように店を出た。えっ。また逃げるのかって?では、どうすれば良いと言うのか。店内の華やかな雰囲気に溶け込めない以上、そこから立ち去るしかないじゃないか。電車の時間も迫っているし。それが「逃げ」なんだよ。うるせえな。ああ。そうだろうさ。これが俺のサガなんだよ。だがな、そんな簡単に今までのやり方を変えられるかよ。異常な思考が俺の脳内を駆け巡っていた。もしかしたら、自分でも気づかぬ内にそれが口を出ていたかも知れないな。擦れ違った人は俺をキチガイだと思ったに違いない。事実そうだが。

米原に着き、俺は隣のホームに走った。名古屋方面への最終電車は既に出発していた。仕方なく改札を通り外に出た。タクシーを利用しようかとも考えたが、アホらしいので止めにした。歩こう。それぐらいの体力なら俺にもまだ残されている。闇に包まれた集落や農道を抜けて、自宅に辿り着いたのはそれから1時間後であった。

結局、その日は傘を使う機会はなかった。

(5月2日記、宮村直佳)


3月14日(土)亀岡・すみれや「ホワイトデーライブ」

握力計を握ってみる。右、28Kg、左は5kg。

『5か・・・。キビしいな。』

しかし、握れるようになっただけマシである。痺れの強いときは、右手で握力計を支えなければ保持することさえできなかった。

『これでいくか。』

私は、7聖剣の1、マーチン・ピックギターを取り上げた。

軽い。何とか左手一本で持てる。

弦のテンションもやわらかい。

『問題は、音。さて、どうするか・・・。』

f型サウンドホールのこのギターでは、とうていフィドルの音量とは張り合えない。もともと、ブルースソロ弾き語り用として所有しているもので、アンサンブルに使用した経験がない。

『これしかないな』

メサブギのアンプに灯をいれてみる。このような日がくると想定していた訳でもないのだが、ピックアップを装着しておいて良かった。

メサブギはイコライザー設定が細やかに調節できるので重宝する。

『左手のハンデは、こいつのリバーブでカバーしてもらおう。』

こうつぶやいて私は、スミレやへと向かった。

いつもなら、譜面台を立てるだけだが、今日はアンプの設定に時間がかかる。やや早めに店に着いた私は、セッティングを済ませ奥の席に座りワインを楽しみながら開演時間の来るのを待った。と、見覚えのある背中。

新メンバが来ている。グラスを持って近づく。

「早いね、楽器は持ってきた?」

「はい、先生のを借りてきました。」

フルートのことは良くわからないが、どうやら見た目、コクタン製。いかにも良い音を奏でそうな顔。

やがて、大城が到着。もう飲んでいるのですか?という顔をして自身のセッティングとチューニングをはじめた。

「じゃ、合わせよう」

大城がリードを取り、アイリッシュフルートがユニゾンを奏でる。上からギターバッキングをかぶせるという手法をとった。

斎藤恭子。アイリッシュフルート奏者。

みゅーずに、新ユニットが誕生した。

つづく

(陳五郎〜4月3日みゅーず掲示板より〜)

「ホワイトデーライブ」2

これまでは、土曜夜に定期ライブを行ってきた。

この日は日曜日。時間も一時間繰り上げ、夕方六時からの開演となった。変更は店主からの要望であるが、よい提案と思う。

みゅーずを支持してくださる方々の中には、主婦や子供さん、ご老人もおられる。明るいうちなら、足を運んでくださる方もおられるはずだ。

だが、本当の変更の理由は、実は店主がライブを聞きたいからである。土曜の夜は、店主自らどうしても配達に出なくてはならないと言う。ライブ終了後に戻ってきては毎回、

「あ〜、今日も間に合わなかった。また、聞き逃してしもうた。」

と、残念そうにおっしゃってくださる。

ありがたい話だ。もったいないお言葉だ。

時間変更は、奏効。およそ二時間の間に3ステージをこなすのだが、各ステージ、適度にお客様が入れ替わってくださる。まだ、3曲しかレパートリーのないフルート奏者にとっては、毎回、新鮮な気持ちで演奏ができる。たすかった。

おかげさまで、ここしばらくは、ほとんど満席状態が続いている。ステージ裏の厨房の混乱ぶりが嬉しい。やはり、店には儲けていただきたい。

スミレやと、みゅーずは進化します。応援のほどよろしくお願いします。

(陳五郎〜4月8日みゅーず掲示板より〜)


2月8日(土)亀岡・すみれや(珍獣王国)

トリオ・デ・珍獣王国

メディカル王将会で陳五郎さんにコテンパンにやられたあと、陳五郎さんと一緒に亀岡のすみれやに珍獣王国を見に行きました。スペースと音響の都合で、ボーカル&ブルースハープの山下純一さん、キーボードの門田守さん、ギターの篠原裕さんの三人編成の珍獣王国でした。

珍獣王国のライブを見たのは一年ぶりでしたが、洗練されていかにもプロという感じがしました。身内っぽい人たちが多く、珍獣王国の事務所の美人社長さんも「今日は客」といいながらワインをぐびぐび飲んで『元祖天才バカボン』のエンディングテーマを歌っているというアットホームなライブでした。

ブルースなのに比較的若い女性客ばかりだったのには驚きました。ブルースマンはモテルのでしょうか。

三人の演奏はほとんどアドリブのようでした。フリーに楽しんでやっている雰囲気がよかったですね。

門田君&陳五郎さん

途中の休憩時間に陳五郎さんが篠原さんのギターを借りて、眼鏡の門田君とセッションを始めました。ノリノリの陳五郎さんが盛り上がりすぎて弦で中指を切っていました。そのあと篠原さんは「陳五郎さんの血を吸ってギターの音色がよくなった」とギャグをいってお客さんを沸かせていました。山下さんが「村正か」と呟いていました。

チャージ料なしで、遅れてきたお客さんのために予定よりワンステージ多く演奏してくれたこともあり、三時間弱のお得なライブでした。

ブルースのことは全然知りませんが、ファンキーなライブで、楽しめました。

(2月8日談、へぼ)

《追記》

読みました!

みゅーずサイト管理人さんめちゃありがとです!

今ライブレポ拝見させてもらいました!うんうんそうやったそうやったと思い返せておもしろかったですよ!いいなぁライブレポ!誰か珍獣サイトにも書いてくれへんかなぁ★(笑)

(珍獣王くん〜2月9日珍獣王国掲示板より〜)

「ファンキーなライブで、楽しめました。」

これは、彼らが最高に喜ぶ誉め言葉です。

じつは、あれから、4ステージ目”みゅーず”ライブがありました。

遅れてこられたお客さんのために。

次回は、4月4日(日)

みゅーずとのセッションも検討中です。

(陳五郎〜2月9日『奇魂』掲示板より〜)


1月30日(金)西院・ウーララ

俺が《うーらら》に着いたのは、午後7時を少し回ったところであった。

地下鉄から地下鉄を乗り継いで、最寄り駅から全力で走った 。肩で息をしていた。背中に汗を感じる。

俺は構わずにドアを開けた。

そこは、人が2〜3人も立てば一杯になる小空間であった。

ライブを聴きにきた者は、ここでチャージ料を支払う決まりである。

その小空間に年齢不詳の男性が座っている。

出演者のお知り合いですか?

ええ。陳五郎さんの…でも今夜来る事は連絡してません。

では、当日料金(1500円)でお願いします。

わかりました。俺は紙幣と硬貨を取り出しつつ、もう中に入っても良いですか?と質問した。

は?男性は俺が何を言っているのか意味がわからない様子であった。

俺は外を指差して「リハ中」の札が下がっていましたよと言った。

そりゃいかんわ。男性は慌てて、札をひっくり返す為に出て行った。

俺は店へと通じる分厚い木製のドアを開けた。

かの男性が《うーらら》のマスターである事を、俺は後で知った。

中に入ると既にライブは始まっていた。

今夜は2名のミュージシャンと、陳五郎さん率いる《みゅーず》が出演する予定である。

《みゅーず》の出番は一番最後である。

薄暗い店内では20人程の客が音楽と酒を楽しんでいた。

店の奥には小さいながらも立派なステージが用意されている。

一人芝居なら充分演じられる規模である。音響装置も本格的だ。

俺はカウンター席に腰かけた。愛想のない女二人が給仕をしていた。

何を頼もうかと思案していると、突如陳五郎さんが舞台に登場した。飛び入りだ。

若いミュージシャンとの短い共演を果たすと、舞台の脇へと姿を消した。

何やら得をした気分である。俺は生ビールとワタリガ二の唐揚げを注文した。

陳五郎さんが各テーブルを丁寧に巡っている。

贔屓客か友人か、時には握手も交わしつつ、談笑されていた。

お客さんを大切にする陳五郎さんの性格が滲み出るような光景であった。

この店の女給さんも少しは見習って欲しいものだ。

やがて、陳五郎さんは俺の存在に気づかれた。

隠密活動ごっこもこれでおしまい。俺は席を立ち、お辞儀をした。

なんや。来てたんかいな。

暫くの間、陳五郎さんと会話をする機会に恵まれた。

今夜の子連れブルースマンは虫の居所が悪いらしい。

様子も話し振りも普段とそんなに変わらないような気がするのだが…

陳五郎さんが怒っていると聞くと、それだけで俺は怖い。

誰や誰や。狼の機嫌を損ねた奴は。

宮村ー。俺は本当(ホンマ)はギターが巧いんやぞ。それを今夜見せたるわ。

えっ。日頃、常に控えめな態度を崩さない陳五郎さんとは思えぬ発言であった。

だが、こういう陳五郎さんも面白いと思った。

〈荒れ気味陳五郎〉には普段とは違う魅力が感じられた。

年齢相応に達観された印象を受けるが、この人にはまだまだ猛々しい部分が残留している。

表現者たるものそうあるべきだとも思う。

今夜の《みゅーず》はやってくれるに違いない。そんな期待に震えつつ、俺はグラスを重ねた。

今夜のトリ。我らが《みゅーず》の登場である。

今夜はボーカルの平井さんも参加。万全の布陣であった。

陳五郎さんの迫力に気圧されたのかどうか。

フィドルを操る大城さんの顔が、心なしか紅潮しているように見えた。

だが、演奏の方は素晴らしかった。

平井さんの滑らかな歌声が会場を席巻した。

そして、その二人を上回る陳五郎さんのギターの冴え。

陳五郎さんの刻む波動が観客の心を鷲掴みにする。

こうなると俺の酒も益々進むというものである。

好評の内にライブは幕を閉じた。

演奏終了後も暫く拍手が鳴り止まなかった。

今夜のライブは、少なくとも俺が聴いた中では、あらゆる面で最高の出来映えであった。

お客さん。終点ですよ。

え…?

掃除のおじさんに揺り動かされて、俺は目を覚ました。

在来線の車内である。

大城さんの車で京都駅まで送ってもらい、米原行きの電車に飛び乗ったのだ。

そこまでは覚えている。

席を確保した後、完全に眠り込んでしまったらしい。

電車は既に米原駅に到着していた。

おじさんの困惑した表情。さっさと退いてくれ。

俺は覚束ない足取りで寒々しいホームに降り立った。

サラリーマン風のオヤジがベンチに寝そべって鼾をかいている。お父さん。風邪引くよ。

時計を見ると午前0時45分。米原駅は静寂と寒気に包まれていた。

俺は改札口を出て、駐車場へと続く地下道へと潜り込んだ。

動く者は俺一人である。

冷たい空気がボケた頭に心地好い。

そうだ。俺は《みゅーず》のライブに行ったんだ。

次第にライブの興奮が俺の中に蘇ってくる。

澄み切った夜空には冬の月が浮かんでいた。

駅前のスナックからは、カラオケと思われるオヤジの銅鑼声が響いてくる。

月光に照らされた町並みが、妙に幻想的に映った。

このまま帰宅するのは勿体ないような気がした。今夜は気分が好い。

湖岸道路に出て、琵琶湖でも眺めてから帰るか。

俺はそんな事を考えていた。

(2月11日記、宮村直佳)


1月24日(土)亀岡・すみれや

ライブ直前のすみれや

当日の昼間、大城さんに会つたので、「すみれやは予約が必要でせうか」と訊ねると、「大丈夫とは思ひますが、満員になることもありますね」とのこと。インテレサンテすみれやはライブハウスではなくレストランなので、所定の席が埋まればそれ以上は入れない。その夜のみゅーずライブに行くのは最初二人の予定だつたのが、いつの間にか六人に増えてゐたので、陳五郎さんに連絡して予約を取つてもらつた。

天気予報は夕方から零下4〜5度になるだらうと伝へてゐた。ライブ開演の六時少し前にすみれやに到着。車から出ると、そこまでの冷え込みは感じないものの、寒かつた。すみれやの入口に看板が置かれてゐて、「『みゅーず』演奏会。」とある。演奏会といふのがいい。温かい店内に入ると、すでに陳五郎さんと大城さんがスタンバイしてゐた。

『みゅーず』演奏会。の看板

その前すみれやを訪れたのは、昨年十一月二十三日(土)のこと。その時は東京から来て下さつた森利行・清水俊博両氏と宮村直佳と私の四人で山下純一さんの珍獣王国のライブを見に行つたのだ。素晴らしいライブで、ブルースのライブを初めて見た森さんが盛り上がりまくつてゐたものだ。

インテレサンテすみれやは亀岡市千代川の国道9号線沿ひにあるベーカリー・レストランで、三角屋根が可愛いお店である。パンも美味しく、料理の種類が豊富で、しかも安い。この界隈では貴重な一軒である。

みゅーずはすみれやで月一回ライブをやつてゐる。ライブハウスとは異なり、客と袖が触れ合ふやうな近さのフロアの片隅で演奏してゐる。開演時間はまちまちだが、通常およそ二時間の間に三十分のライブを三回やる。内容は三回とも違ふから、ゆつくりと食事を楽しみながら聴くのがよい。席数はバンドの編成によつて変る。その夜は二十四席設けてあつて、ライブ時間内のお客さんは二十人ほどであつた。

料理のことを書かう。私はビーフシチューとパン盛りのセットにした。こくのあるシチューもよかつたが、数種類のパンが盛り込まれた、ほかほかのパン盛りが美味しく、もう一皿お代はりをしてしまつた。また同行した人の注文した自家製ハンバーグが鉄板の上でジュージュー言つてゐるのがあまりに美味さうなので、味見させてもらつた。上々の味だつた。次回はハンバーグにしよう。そのあとでカスタードクリームとフルーツのホットサンドを追加したが、中からとろけ出るクリームが熱々で、これも美味しかつた。

みゅーずはフィドルとギターの編成で、これぞケルト音楽といふトラッドでベーシックな曲をやつてゐる。ブルース陳五郎ではなく、みゅーずを聴くのは久しぶりだつたが、その夜のみゅーずは私は素晴らしいと思つた。

陳五郎&大城敦博

結成当初はケルト音楽の規格に基づいて演奏してゐる感があつたけれど、今は自在な境地でやつてゐる。元々陳五郎さんは常にアドリブでギターを弾いてゐたから、この自在感は大城さんとの呼吸が合つてきたといふことだらう。陳五郎さんによればケルト音楽は口移しで曲の原形を守りながら伝承してゆくものらしいから、むしろ規格通りにやるのが正しく、みゅーずのやうなフリースタイルはケルト音楽としては異端なのかもしれない。

じつはみゅーずには三人目のメンバーがゐる。平井さえさんといふ若い女性ボーカルである。ウーララなど大きなライブの時などに不定期に参加する、みゅーずの隠し玉である。この夜は平井さんがすみれやに顔を出したので、飛び入りで一曲歌ふことになつた。曲のタイトルは失念したが、第三部の一曲目だつた。平井さんは、平成十四年の六月二十六日(水)にウーララで行なはれたみゅーずと佐渡屋イエローブルースバンドのジョイントライブの時に初めて見たのだが、その時私は次のやうな感想を書いてゐる。

陳五郎さんとフィドルの大城さんの二人で、いつも通りのアイリッシュの曲が続いたあと、いよいよ女性ボーカルが登場。平井さんといふ二十二歳の女の子で、少し上がつてゐるやうに見えましたが、なるほど歌唱力はある。『アメージンググレイス』など数曲を披露しました。陳五郎さんからは、ふだんはファンキーな曲をやつてゐてSILVAつぽいボーカリストだと聞いてゐましたが、ソウルフルに歌へばたしかにさうかもしれません。アイリッシュをやると歌唱力のある鬼束ちひろといふ感じでした。歌唱力は相当のものですが、もう少し声のコントロールが出来るやうになれば、素晴らしいボーカリストになる逸材でせう。彼女がパワフルに歌ふR&Bも聞いてみたいと思ひました。「そのうち引き抜かれる」とは、陳五郎さんの弁。

陳五郎&大城敦博&平井さえ

素人が随分偉さうなことを書いてゐるものだ。あれから一年半余りが経過し、さらにボーカルに磨きがかかつたと思ふ。歌ひ終つたあとに平井さんがチラシを配つてゐたが、彼女も加はつたトリオのみゅーずは、近日では一月三十日(金)のウーララで見ることができる。

その夜の演奏で感動したのは、第三部の後半に演奏された「トゥリーズ・ゼイ・ドゥ・グロウ・ハイ(彼らが育てた木)」と「ラブリー・ジョアン」の二曲だ。「トゥリーズ・ゼイ・ドゥ・グロウ・ハイ」は60年代のPPMなどを髣髴させるフォークソング風の曲。そして「ラブリー・ジョアン」はトラディショナルソングのモチーフを使ひ、あとは完全にアドリブで演奏したもので、これが特に素晴らしかつた。この曲に関しては陳五郎さんはケルトの奏法を思ひ切り逸脱してブルースのテーストを駆使して弾きまくり、大城さんのフィドルがそれに絡んでゆく。その疾走感と面白さは音楽のことを知らない私の筆では表現できない。恐らく大城さんは大変だらうが、とにかくポップスとして抜群に面白い。これはすでにみゅーずのオリジナルの世界である。

ライブが終つた時には八時を十分ばかり回つてゐた。たまたま食事に来たらしいお子さん連れの女性が、マスターに「よかつたわ」と言つてゐた。マスターは「生で聴くと素晴らしいでせう」と嬉しさうに話してゐた。

(1月25日記、高坂 相)

《追記》

歌っていただいたのは、『ワンス・アイ・ハド・ア・スウィート・ハート』です。

30日、『ラブリー・ジョアン』プログラムに入れるか、検討します。

(陳五郎〜1月25日『奇魂』掲示板より〜)


1月16日(金)伏見・ざぶざぶ

その日は一日中イライラしていた。

そう言えば、今日は《みゅーず》のライブがある日だ。

俺は定時になるとさっさと会社を出た。

目指すは京都伏見区の居酒屋《ざぶざぶ》である。

俺の会社は滋賀の山奥にあり、米原駅まで行くのに一苦労である。帰宅ラッシュに巻き込まれて、またしてもイライラが再発する。

時計の針が動くのがやけに速い。

米原駅近くの駐車場に滑り込んだのが午後6時15分前。

何としても5時57分発の新幹線に乗り込まねばならない。

どういう訳か駐車場のオヤジが代金をまけてくれた。

単なる好意か、博打で一発当てたのか。

俺にはさっぱりわからなかった。

週末の新幹線。車内はかなり混雑していた。

新幹線は予定通りの時間に米原を出発した。

珈琲が飲みたかったが、いつまで経っても車内販売のワゴンが俺の前に現れず、京都駅に着いてしまった。

改札を抜けて、地下鉄乗り場へと走った。

構内の時計を確認すると、開演まではまだ余裕がある。

そんなに急ぐ必要もないか。少し落ち着こう。

そう思った。

目的地《ざぶざぶ》に到着したのは7時15分頃であった。

この店に来るのは久し振りである。

マスターが俺の事を覚えてくれたのは嬉しかった。

洒落た照明に照らされた店内に絶え間なく流れるジャズ。

木製のカウンターと店の一画を占める楽器の数々。

この独特の雰囲気がたまらない。

そしてそこに、今年初めて見る陳五郎さんが立っていた。

陳五郎さんは俺の出現に少し驚いた様子であった。

俺自身、神出鬼没を気取っているので、予告をした上でライブ会場に足を運ぶ場合は数えるほどしかない。

いきなり現れて、風のように去る。それを狙っている。

多分に子供っぽい行動であり、思考であった。

陳五郎さんは同年輩の女性と話をされていた。

後で聞いてみると、陳五郎さんの同級生の方であった。

三十何年振りかの再会だという。

陳五郎さんの奥にメンバーの一人、大城さんが控えていた。

今日のライブはボーカル不在という事であった。

雑談をしている内に開演時刻となった。

《ざぶざぶ》の料理はどれも美味しい。

俺は店の名物でもあるだし巻き卵を頼んだ。

腹が減っていたのでパスタを注文する。これも旨かった。

適度に冷えたビールが乾いた喉に心地好い。

《みゅーず》の演奏を聴くのはこれが何回目であろうか。

今夜の演奏をいつにも増して心に沁みた。

陳五郎さんのギターが冴え渡り、

大城さんのフィドルの腕前にも一層磨きがかかってきた。

ライブは二部構成であった。

第二部後半の演奏が特に良かった。

飲酒を中止して、思わず聴き入ってしまった。

《みゅーず》の奏でる音色には、俺のようながさつ者さえ感動させる力があるのである。

これが音楽の力なのか。

感受性の強過ぎる友人を一人知っている。

もしその人が聴いたら、わっと泣き出したかも知れない。

ライブ終了後、マスターと会話をする機会があった。

無骨な印象を受けるマスターだが、今夜は妙に機嫌が良かった。

第一線は退いたものの、このマスターも腕の立つミュージシャンである。

若い時は有名歌手について全国を廻ったそうな。

現場にいた者しかわからない貴重なエピソードを聞かせてもらった。

楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまう。

帰りは厚かましくも陳五郎さんの車に乗せてもらった。

京都駅に向う途中「あれが俺の生まれた家やで」と、陳五郎さんが自分の生家を教えてくれた。

京都タワーがよく見える界隈であった。

陳五郎さんが少年時代を過した界隈であった。

この時代に「仁義」を標榜する子連れブルースマン。

そのルーツがこの辺りに潜んでいるらしい。

猛烈な興味が湧いてきたが今夜は帰らなくてはならない。

米原駅に着いたのは、午後11時30分頃であった。

無人の改札口を通過して外に出る。寒い。吐く息が白い。

路面は溶けた雪が再び凍り、非常に危なっかしい。

凍てついた大気が顔を刺す。俺は駐車場に急いだ。

天空には、冬の星座が鮮やかに描き込まれていた。

(1月18日記、宮村直佳)

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